fc2ブログ

記事一覧

石家荘沈みゆくなり

 男声合唱をたしなむ者なら、誰もが知っている名曲のひとつに、多田武彦作曲の男声合唱組曲「草野心平の詩から」があります。
 この組曲は、数ある「タダタケ」作品の中でもトップ3に入る名曲中の名曲として評価が高く、終曲の「さくら散る」などは、高度な技術を要求される代わりに、歌いきれば、演奏自体がひとつの「劇場」であるかのように、詩の中の情景を聴衆の脳裏に浮かび上がらせることができるほどの完成度を持った作品です。
 しかし、この組曲の代名詞的な存在は、「茫々の平野下りて…」という下りから始まる第1曲目「石家荘にて」ではないでしょうか。
 私は、初めてこの詩を知った頃には、この「石家荘」は山荘か何かの固有名詞だと考え、それが地名だとは思いもよりませんでした。
 ところが、最近になって、何とこの地名が連日、マスメディア上に登場するようになり、ほぼ毎日、何らかの形で目にするようになってきました。
 「中華人民共和国の華北省石家荘市」と言えば、あの農薬入り餃子事件の元となった餃子を製造した中国の食品製造会社の所在地なのです。
 この中国の地名に「ピンと来る」のは、男声合唱とりわけ多田武彦作品をこよなく愛する階層の人だけですから、一般的には単なる「ニュースに出てくる地名」として、別に騒ぐようなことではありません。しかし、男声合唱のオールドファンにとっては、「あの石家荘」がこのような不名誉な形で知られるのは、少々忍びがたいことと言えます。
 「月蛾(娼婦)の街」をさまよう女の悲哀が漂う、モノクロ的色調のこの曲は、「十文字愛憎の底にして石家荘沈みゆくなり」という一節で終わります。
 連日の暗い報道に接しながらこの曲を聴くと、どうしてもこの最後のフレーズが頭をよぎってしまいます。 
スポンサーサイト



コメント

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

事務局長

Author:事務局長
「大学に行ったら落研に入ろう」というつもりでいたのに、進学先には落語研究会がなく、男ばかりの男声合唱団に引きずり込まれて数十年。
社会人になってからも「生涯の趣味」として今もゆる~く奮闘中。
酷寒の片田舎で零細男声合唱団の番頭を務めている。